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デザインの役割と時代性

話題としてホットだったのは、ちょっと前になってしまいますが
皆さんもよくご存知かと思われます件、ローソンのPB商品のフルリニューアルについて。

デザインで飯を食わせていただいている僕のような人間としては、
そのデザインが問題の種となっているこの件について、いろいろと考えさえられることが多く、

本件、デザイナーとしてなのか、マーケターとしてなのか、経営者としてなのか、
純粋に一般生活者としてなのか、
立場によってももしかしたら、答えが変わるかも??なんて思ったりもしますが
デザイナーとしての頭で考えることを、すこしお話ししたいと思います。


そもそも今回のこのPB商品のフルリニューアルは、どういう背景で行われたか。
ローソンと生活者の関係性として、生活者に「コンビニないかな?」でなく「ローソンないかな?」と
思われるような存在を目指すという、ローソン自体のいわばブランディング戦略の一環で、
所謂PB商品っぽさとは一線を画し、コンビニらしからぬおしゃれ雑貨店のような趣の
「そばに置きたくなる、お気に入りとして生活に溶け込めるような」デザインという
コンビニPBとしては斬新なコンセプトで、ローソンとしての独自性を目指したそうです。
従来の来店客の男女構成比における女性の少なさ、そこをどう取り込めるかという課題もあったことから
消費ポテンシャルの高い女性層の支持獲得を意識した側面もあったようです。


そうしてリニューアルされた新パッケージデザインが店頭を埋め始めると
ご存知の通りネットやSNSを中止に賛否両論を巻き起こし、ちょっとした炎上案件のように。
開発サイドの思惑通り「おしゃれ」「かわいい」「(女性が)買いにくかった商品が買いやすくなった」
「イメージがアップした」といった好意的な意見もあるものの、
どちらかというと一般消費者から識者まで総じて「分かりにくさ・選びにくさ」を問題視した
批判的な意見が多数を占めたように思います。

こういった表立った切り取られた部分だけを見ていると、
このリニューアル案件は失敗だったのかなー、などと思ってしまいますが
その実はリニューアルによる商品売上は上昇しているようで、ターゲットとした女性層の獲得にも成功、
逆に売上の下がった品目は無い、という数値結果を出せているそうです。
つまり狙ったところは狙い通りに獲れていて
マーケティング的には成功、なのですね。

一方
デザイン的には非常に多くの問題を孕んでいます。
「分かりにくい・選びにくい」デザインは、一般的な人からしたら「不便」で済む話ですが、
例えば高齢者にとっては、商品を選びにくく買い間違えや、場合によっては分からなくて買えない、ということになったり。
例えば視覚弱者の方にとっては、商品を見分けがつけられなくなり、同様に買えなくなってしまったり。
例えば食品アレルギーを持つ人にとっては、自身のアレルゲンを含む商品かどうかが判別しにくくなるということは
買い間違えによる喫食で生死に関わる一大事にもなりかねなかったり。
コンビニという多様な人が集まる店だからこそ、向き合わなけれなばならないダイバーシティに
これらのデザインは背を向けてしまっている、配慮が欠けているとも言える問題。
(ターゲットとした女性層ばかりが集まるお店であったら、また違ったのでしょうが)

加えて、
世の中の潮流・デザインの潮流とも逆行してしまっていること、
そしてそれが企業としての矛盾まで見せてしまっていること。
最近は様々な媒体で特集が増えてきていたり、弊社クライアント様との打ち合わせでも聞くようになってきたぐらい、
日常にも浸透してきている感のある、SDGsへの企業としての姿勢・取り組み。
ローソンも業界を牽引する大手ですから、当然のようにここに対するステイトメントは表明しているのですが

https://www.lawson.co.jp/company/activity/sdgs/

これを標榜する企業が行うリニューアルのパッケージデザインの姿が、
こうしたある種ダイバーシティに背いた、一部の人を切り離してしまうようなデザインであってよいのか。
SDGsで求められるユニバーサリーと対極のようなコンセプトでよいのか。
コンビニという多様な来客者に開かれていなければならない業態だからこそ尚、
このデザインの選択は間違いではないか、という企業姿勢まで問われてしまう問題。
単純な外見の問題以上に、深刻ですよね。


今現在、これらの批判を受け止めた再度のリニューアル(軌道修正)が発表になっていて
順次店頭も切り替わっていくようです。

ローソンの企業としての新たなチャレンジ、逆風を恐れず変化を模索する
その姿勢は素敵だなと、共感もする反面
世の中が「デザイン」に求めることが、加速度的に変化している昨今
本件はそれを拾いきれなかった・配慮しきれなかった部分もあったのではないかと
いちデザイナーとしては思う、一件でした。

コロナによる影響でますます、世の中のいろいろが急激に変化をしているいま、
デザインというものが役に立てること・立つべきことも
デザインに求められる役割も、またどんどん変化しているのを感じます。

その中でデザイナーは、そんな潮流をしっかりと汲み取りながら
「デザインが役に立てること」を見失わないようにしていなければと、考えています。

T.S