
「ピンチをチャンスに変える」。映画監督の新しい挑戦
新型コロナウィルスの影響で様々な業界が深刻な痛手を受けている中、
映画業界もその最たるものの一つと言えます。
外に出れない・人が集まれないため、従来の映画が作れない状況の中でも、
クリエイターたちが新しい作品を生み出そうしています。
なかでも、映画監督・行定勲の『きょうのできごと a day in the home』という
ビデオ会議アプリ・zoomで作られた短編映画が話題となりました。
4/24にYoutube上で公開され、現時点で20万回再生を記録しています。
『きょうのできごと a day in the home』
https://www.youtube.com/watch?v=pc8u9n3HTTAプレビュー
この作品は、柄本佑、高良健吾、永山絢斗、アフロ(MOROHA)、浅香航大、
有村架純らが全員リモートで自宅から出演し、高校の同級生たちとのオンライン飲み会
という設定で42分間、zoom画面上でノンストップで物語が進行します。
行定勲監督のインタビューによると、基本はしっかりとした脚本があり、
好きな映画をみんなで紹介するくだりだけはアドリブ、とのこと。
あとは俳優陣が自宅でパソコンを設定し、演技もしています。
「Youtube上で40分も観るのきついなぁ…」
「行定勲といえば恋愛映画だけど、人が会えない状況で作れるの?」
「そもそもzoomだけで作った映像は映画と言えるのか?」
勉強のためにと重い腰を上げて見始めましたが、まごうことなき映画でした。
この作品のすごさは、zoomを使うことで新しい映像表現をも生み出している点です。
一つ目が、映画と演劇の中間という新しい手触りを生み出したこと。
一発撮りということ、役者たちの画面サイズが均等なことから、本作は演劇に近い印象となり、映画と演劇のちょうど中間のような不思議な感触を作り出しています。
普通の演劇の舞台中継よりも、本作の方が演劇的なのではないかとすら思えます。
二つ目が、現実とフィクションの境界があいまいであるということ。
役者陣が自宅にいてリラックス(という演技?)しており、
かつzoomあるあるネタが随所に散りばめられているため、
このzoom飲み会は実際にどこかで行われているのではないかという気がしてきます。
また、zoom画面でのみ進行するため、パソコンで見ている私も途中からこのzoom飲み会に
参加しているような気になってくるのです。
そして前述したように、役者陣が好きな映画を語るパートでは本当に好きな作品について話すので、
現実とフィクションの境界があいまいになり、なんだかクラクラしてきます。
これもまた新しいzoomを使った映像表現の形だと言えます。
作品開始10分ぐらいまでは、
「このゆるい男子会のテンションで40分はキツイぞ…」と思っていましたが、
後半、5人の男性が自身の恋愛について語るパートになると
話はどんどんスリリングに展開していきます。
作品は思ってもみない方向に進んでいき、特に有村架純が登場してからは
「これは映画だ!しかもすごい質の高い恋愛映画だ!!」
と納得せざるを得ないクライマックスを迎えます。
この行定勲監督の新しい挑戦について、
ビジネス的に言うと「ピンチをチャンスに変える」という
安易な言葉に集約することもできてしまいます。
彼の作品からは、このような状況下においても何か新しい表現を生み出そうとする
行定勲監督のクリエイティブさと映画人魂、
作家としての意地のようなものをビシビシ感じました。
本作は、世間に溢れるむやみに人を鼓舞する安易な言葉ではなく、
作品をもって私たちに「気づき」を与え、刺激を与える
実に映画監督らしいメッセージ発信だったと思います。
F.I